本記事はProofpointが公開した「2026 AI-Era Ransomware Report」の内容を基に、主要なポイントを解説したものです。
https://www.proofpoint.com/us/resources/threat-reports/ai-era-ransomware-report
Proofpoint「2026 AI-Era Ransomware Report」から見えた新たな脅威
ランサムウェアというと、「サーバーが暗号化される攻撃」を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、Proofpointが発表した「2026 AI-Era Ransomware Report」は、その認識を大きく変える内容でした。
現代のランサムウェアは単なるマルウェアではなく、「人・ID・信頼」を悪用するビジネス化された犯罪へと進化しています。
さらにAIの普及によって、攻撃はこれまで以上に巧妙かつ大規模になっています。
ランサムウェア最大の侵入口は「人」
企業がランサムウェア対策を考える際、多くは脆弱性管理やパッチ適用に注目します。
しかし調査結果では、攻撃の入口はシステムではなく「人」であることが明らかになりました。
悪意のあるリンク(47%)、悪意のある添付ファイル(46%)、認証情報の窃取(36%)、BEC(35%)など、主要な侵入経路はいずれも利用者の行動に依存しています。
AIは新しい攻撃手法を生み出したのではなく、既存のフィッシングやなりすまし、認証情報窃取をより自然で見抜きにくいものへ進化させました。
日本では特に「悪意のある添付ファイル」が脅威となっており、71%が主要な初期侵入手段として報告されています。
ランサムウェアは「暗号化」から「恐喝」へ
現代のランサムウェアはもはや暗号化だけが目的ではありません。攻撃者はまずデータや認証情報を窃取し、その後で暗号化や恐喝を行います。
調査では被害企業の54%が身代金を支払ったと回答しました。
ところが、そのうち37%は支払い後に追加の恐喝要求を受けています。
さらに2%は支払ったにもかかわらず復旧できませんでした。
つまり、「支払えば解決する」という前提は崩れています。
攻撃者は暗号化だけでなく、窃取したデータ、認証情報、公開の脅迫など複数の交渉材料を持っています。
約3分の2の企業でデータの持ち出し(データ窃取)が確認または疑わており、被害の本質は「業務停止」よりも「情報漏えい」に移行しつつあります。
MFAだけでは防げない時代
もちろんMFAは依然として重要ですが、それだけでは十分とは言えません。
近年急増しているのが、アカウント侵害から始まるランサムウェアです。
レポートでは「Device Code Phishing」という手法が紹介されています。
これは利用者自身が正規認証画面に攻撃者のコードを入力し、攻撃者へ認証権限を与えてしまう攻撃です。
パスワード窃取もMFA傍受も行われません。利用者自身が正規の認証を完了するため、従来の対策では検知が困難です。
攻撃者はアカウント侵害後にメールボックスを調査し、組織内の人間関係や取引先とのやり取りを把握します。
そして、さらに高度ななりすましや情報窃取へとつなげていきます。
攻撃が成功する理由は「本物に見える」から
調査で最も興味深かったのは、ランサムウェア攻撃が成功した理由です。
– 攻撃が正当なものに見えた:40%
– ユーザーが攻撃に関与した:38%
– メールセキュリティが検知できなかった:33%
という結果でした。
つまり最大の問題は「技術的な防御不足」ではなく、「人間が信じてしまうこと」です。
AIによって作成されたメールやWebサイトは本物との見分けがますます困難になっています。
さらに近年は「ClickFix」と呼ばれる攻撃も登場しています。
偽のエラー画面やCAPTCHAを表示し、利用者自身にPowerShellコマンドを実行させる手法であり、
従来の「悪意ある添付ファイル」を利用せず、利用者自身にPowerShellなどを実行させるため従来型のマルウェア検知を回避できます。
AIがフィッシングの参入障壁を下げている
Proofpointは、AIを利用したWebサイト生成サービス(注:Lovableなど)がフィッシングサイト作成に悪用されていることも指摘しています。
攻撃者は専門的な開発スキルがなくても、本物そっくりの認証画面やファイル共有サイトを短時間で構築できるようになりました。
AIによって攻撃のコストは下がり、規模は拡大し、品質は向上しています。これは防御側にとって大きな課題です。
世界共通の課題は「信頼の悪用」
国別に見ると被害規模には差があります。
– 米国の身代金支払い率:93%
– 日本:37%
– イタリア:19%
と大きな違いがあります。
しかし共通しているのは、攻撃者がメール、認証システム、クラウドサービス、チャットといった「信頼されたチャネル」を悪用していることです。
注)身代金支払い率には各国の法制度やサイバー保険の普及状況なども影響しており、単純比較はできません。
これからのランサムウェア対策
- ユーザーへ届く前に脅威を止める
・メール、URL、添付ファイルに対する防御を強化し、攻撃の入口を塞ぐこと。 - IDを守る
・MFAだけでなく、アカウント侵害検知やなりすまし対策を強化すること。 - 攻撃全体を可視化する
・メール、認証、クラウドサービスを横断的に監視し、侵害の兆候を早期に発見すること。
まとめ
Proofpointのレポートが示しているのは、「ランサムウェア対策=バックアップやEDR」だけでは十分ではないということです。
攻撃者はAIを活用して「人」「ID」「信頼」を悪用し、組織内部へ侵入します。
これから企業に求められるのは、メール対策、ID保護、ユーザー教育、行動分析を個別に導入することではなく、それらを統合して運用するHuman-Centric Security(人中心のセキュリティ)への転換です。
AI時代のランサムウェア対策は、「サーバーを守る」こと以上に、「人・ID・信頼を守る」ことが重要になっています。
日本企業が今取り組むべきこと
Proofpointのレポートから見えてくるのは、「AI時代だから新しいセキュリティ製品を導入すればよい」という話ではありません。
攻撃者はAIを使って、メールやチャット、Webサイトをより自然で本物らしく見せることで、人の判断を欺くことに注力しています。
つまり、これから最も重要になるのは「人・ID・メール」を一体で守るセキュリティ対策です。
日本企業では依然としてメールを起点とした業務が多く、Microsoft 365などのクラウドサービスも広く利用されています。
そのため、従来のマルウェア対策やEDRだけでは十分とは言えません。
フィッシング対策を強化したメールセキュリティ、多要素認証(MFA)の導入、条件付きアクセス、認証ログの監視、異常なサインインの検知など、IDを狙う攻撃を前提とした対策が重要になります。
また、AIを利用したフィッシングメールは文章の不自然さが少なくなり、日本語も極めて自然になっています。
従来の「怪しい日本語だから見抜ける」という考え方は通用しません。
従業員教育も、「怪しい添付ファイルを開かない」といった従来型の内容だけでなく、QRコードを利用した攻撃、Device Code Phishing、ClickFixのような新しい手口を取り入れ、継続的に実施する必要があります。
さらに、万が一侵害された場合を想定した備えも欠かせません。
ランサムウェアは暗号化だけでなく、情報窃取や二重恐喝が主流となっています。
バックアップの取得だけで安心するのではなく、重要データの暗号化、アクセス権限の最小化、ログの長期保存、インシデント対応手順の整備など、被害を最小限に抑えるための準備も重要です。
AIによって攻撃の高度化と大量化は今後も進むと考えられます。
だからこそ日本企業には、「人がミスをしないこと」を前提とするのではなく、「人は騙される可能性がある」ことを前提に、多層防御とゼロトラストの考え方に基づくセキュリティ対策へ移行していくことが求められています。
著者紹介
山田幸志
MS365認定アドミニストレーターエキスパート、情報処理安全確保支援士。
Microsoft 365を中心としたクラウド、セキュリティ、インフラ領域を専門とするITエンジニア。
でも得意分野はLinux/仮想化。
日本最古のITコミュニティの幹事や、日本最大のネットワークオペレーター会議の実行委員長、セキュリティイベントやGadgetイベント発起人など、数多くの技術コミュニティの運営に携わる。コミュニティ活動を通じて幅広い知見と実践的なスキルを磨き、現場で得た経験や技術情報を発信している。







