関東での鳥獣被害が拡大している
関東圏では、野生鳥獣による被害が農作物の損失にとどまらず、住宅地や道路、生活環境にも広がっています。
令和6年度の全国の農作物被害額は188億円に達しており、関東でも茨城県、群馬県、栃木県を中心に大きな被害額が確認されています。茨城県では約37,769万円、群馬県では約34,373万円、栃木県では約24,300万円の農業被害が報告されており、地域の一次産業にとって大きな負担となっています。
188億円
令和6年度 全国農作物被害額
約3.8億円
茨城県の農業被害額
約95倍
東京都区部のアライグマ相談件数増加率
関東主要県の鳥獣による農業被害額
単位:万円。最大値の茨城県を100%として相対表示。
関東主要県の鳥獣被害状況
| 都県 | 農業被害額 | 主な原因獣種 | 地域的特徴 |
|---|---|---|---|
| 茨城県 | 約37,769万円 | カモ類、イノシシ、バン類、アライグマ、ハクビシン | 霞ヶ浦周辺でレンコン食害が目立つ。 |
| 群馬県 | 約34,373万円 | ニホンジカ、イノシシ、ツキノワグマ | 農業・林業の双方でシカ被害が大きい。 |
| 栃木県 | 約24,300万円 | イノシシ、ハクビシン、ニホンジカ、タヌキ | 稲・野菜・果樹への被害が中心。 |
| 神奈川県 | 約13,214万円 | アライグマ、イノシシ、ニホンジカ | 主要3種で農作物被害の過半を占める。 |
| 埼玉県 | 約8,286万円 | アライグマ、イノシシ、ニホンジカ、ハクビシン、ニホンザル | アライグマ被害が目立ち、シカは分布拡大傾向。 |
なぜ鳥獣被害は広がっているのか
鳥獣被害が広がる背景には、野生動物の個体数増加だけでなく、人間側の環境変化もあります。
中山間地域では、管理されなくなった農地や山林が増えることで、野生動物が身を隠しながら移動しやすい環境が生まれます。また、住宅地と山林・農地の距離が近い地域では、イノシシやシカ、アライグマなどが生活圏に入り込みやすくなります。
さらに、対策を担う人手の不足も大きな課題です。資料では、狩猟者の高齢化が進み、従来のように人手と経験に頼った見回りや捕獲だけでは継続が難しくなっていることが示されています。
こうした背景から、鳥獣対策は「見つけたら捕獲する」だけではなく、どこで出没が増えているのか、どの地域で被害が広がっているのかを継続的に把握することが重要になっています。
被害は農業だけでなく生活圏にも及んでいる
鳥獣被害というと、田畑や果樹園の被害を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし近年は、住宅地や都市部でも被害が目立つようになっています。
特にアライグマやハクビシンは、屋根裏への侵入、糞尿による悪臭、ダニやノミの発生、配線の損傷など、住宅そのものに被害を与えることがあります。資料でも、東京都区部などの高密度な住宅地で、屋内に住み着いた個体による天井の破損や糞害が問題になっていることが示されています。
また、イノシシについては農作物被害だけでなく、道路への出没や自転車・バイクとの接触事故も懸念されています。茨城県では令和6年度に、走行中の自転車やバイクがイノシシと接触する人身事故も報告されています。
つまり、鳥獣被害は農業関係者だけの問題ではなく、住宅地に暮らす住民、通学・通勤で道路を利用する人、観光や登山で山間部を訪れる人にも関係する地域全体の課題になっています。
関東で注視すべき主な鳥獣
キョン:県境を越える外来生物リスク
特定外来生物であるキョンは、千葉県房総半島を中心に定着してきました。しかし近年は、利根川周辺を経由して茨城県側へ進出していることが確認されています。
資料では、茨城県境町での目撃、古河市での捕獲事例が紹介されており、県境を越える広域的なリスクとして捉える必要があります。
キョンの生息域拡大イメージ
房総半島定着地域
流域移動リスク
境町目撃情報
古河市捕獲事例
アライグマ:都市部で急増する生活被害
東京都区部におけるアライグマ相談件数の推移
平成25年度の9件から令和6年度の856件へ増加。SVGで作成しているためJavaScript不要です。
アライグマは外来生物であり、農作物だけでなく住宅にも被害を与えることがあります。屋根裏への侵入や糞害、配線の損傷などは、住民生活に直接影響するため、自治体への相談件数が増えやすい分野でもあります。
イノシシ:一度減った被害が再び増加
茨城県では、イノシシによる農作物被害額が平成29年度の約15,000万円から令和3年度には約6,239万円、令和5年度には約5,964万円まで減少しました。しかし、令和6年度には約11,269万円まで再増加しています。
この推移から分かるのは、鳥獣被害は一度減少しても、監視や対策を緩めると再び増える可能性があるということです。継続的な情報収集と、地域ごとの状況把握が重要になります。
自治体の現場では何が課題になっているのか
鳥獣被害が広がる中で、自治体の現場にはいくつもの課題があります。
まず、住民からの相談や通報が増える一方で、対応する職員や専門人材には限りがあります。さらに、電話、メール、紙の申請、現地確認、捕獲報告など、情報が複数の経路に分かれると、全体像を把握することが難しくなります。
また、野生動物は市区町村や都県の境界を意識して移動するわけではありません。キョンやイノシシ、アライグマのように広域で移動する動物に対しては、個別自治体だけで完結する対応には限界があります。
資料でも、今後の方向性として、都県境を越えたリアルタイムの目撃・捕獲情報の共有や、デジタルマップを活用した広域的な情報プラットフォームの必要性が示されています。
このような背景から、自治体には「通報を受ける」だけでなく、集まった情報を整理し、地図上で把握し、関係者と共有する仕組みが求められています。
目撃情報は「通報」ではなく地域の状況を把握するデータになる
ここで重要になるのが、住民や農業関係者から寄せられる目撃情報です。
ただし、目撃情報は単なる「通報」ではありません。どこで、どの動物が、どの時期に増えているのかを把握するための地域データです。
茨城県におけるイノシシ被害額の推移
単位:万円。一度減少した後、令和6年度に再増加している点を折れ線で表現しています。
目撃情報が対策につながるまで
目撃情報は、単なる通報ではなく「どこで、何が増えているか」を把握するための基礎データになります。
例えば、アライグマの目撃が住宅地で増えている場合は、住民への注意喚起や侵入口対策の案内につなげることができます。イノシシの出没が道路周辺で増えている場合は、通学路や生活道路での注意喚起、巡回、捕獲計画に活用できます。
また、県境や市町村境に近い地域で情報が集まれば、隣接自治体との情報共有や広域的な対策にもつなげやすくなります。
つまり、目撃情報の共有は、住民に報告を求めること自体が目的ではありません。地域で起きている変化を早く把握し、被害が広がる前に対応するための基盤になります。
目撃情報を収集・共有する仕組みづくり
記事内で紹介したように、
- キョンの広域移動
- アライグマの住宅地侵入
- イノシシの再拡大
といった課題に対しては、
単発の捕獲だけでなく、 継続的な情報収集と共有が重要になります。
近年では、
- スマートフォンによる住民通報
- 写真付き目撃情報の管理
- 地図上での出没傾向の可視化
などを活用した取り組みも増えています。
まとめ:鳥獣被害対策は、地域の変化を早く把握することから始まる
関東圏の鳥獣被害は、農地だけでなく住宅地、道路、生活環境にも広がっています。キョンのように県境を越えて拡大する外来生物、都市部で相談件数が増えるアライグマ、再び被害額が増加しているイノシシなど、地域ごとに課題は異なります。
そのため、今後の対策では、捕獲や防除に加えて、目撃情報や被害情報を継続的に集め、地域の状況を見える化することが重要です。
目撃情報の共有は、単なる通報ではなく、地域を守るための情報基盤です。自治体、住民、農業関係者、捕獲従事者が同じ情報を共有できる仕組みを整えることが、被害拡大を防ぐ第一歩になります。







